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名古屋地方裁判所 平成6年(行ウ)1号 判決 1994年10月28日

原告 夏目正

被告 名古屋中村税務署長

代理人 加藤裕 佐々木博美 ほか二名

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和六三年分の所得税につき被告が平成元年一二月二七日付けでした更正処分が無効であることを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  被告は、原告の昭和六三年分の所得税につき、平成元年一二月二七日付けで所得税総所得金額を六七二万五二五三円、土地等に係る事業所得等の金額を一億七五三二万七四五〇円、納付すべき所得税の金額を一億一九三六万七六〇〇円とする更正処分(以下「本件処分」という。)をした。

2  しかしながら、被告は、別紙物件目録記載の土地が訴外澤田志づ子の所有であったにもかかわらず、これを原告の所有であるとして、原告の昭和六一年分の所得税につき、昭和六二年七月九日付けで更正処分を行い、さらに、同じ前提の下に、本件処分をしたものである。

したがって、本件処分には、重大かつ明白な違法事由がある。

3  よって、原告は、本件処分が無効であることの確認を求める。

二  原告の主張に対する被告の認否

第1項の事実は、認める。

三  被告の主張

原告は、本件処分について、平成三年八月三日、所得税更正処分取消しの訴え(名古屋地方裁判所平成三年(行ウ)第三〇号)を提起し、平成五年九月三日、請求棄却の第一審判決を受け、平成六年五月六日、名古屋高等裁判所に控訴し、現在係争中である。

ところで、課税処分の無効確認訴訟は、同じく課税処分の違法を問題とする取消訴訟との関係からみると、不服申立前置(国税通則法一一五条一項)及び出訴期間(行政事件訴訟法一四条)の制約を遵守できなかったため取消訴訟を提起できなくなった場合の例外的な訴訟であるところ、原告は、本件処分について、右のとおり、既に取消訴訟を提起し、本件処分の適法性を争っているのであるから、課税処分無効確認訴訟の制度的位置付けからしても、同一年分の課税処分について、もはや無効確認訴訟を提起することはできないというべきである。

また、納税者が主位的に課税処分の取消しを求め、予備的にその無効確認を求める場合において、右主位的請求について不服申立前置及び出訴期間の制約が遵守されているときは、右予備的請求は訴えの利益がないと解するのが相当であるとして、無効確認を求める予備的請求に係る部分を却下した裁判例(札幌高等裁判所昭和六〇年一一月二六日判決、釧路地方裁判所昭和五八年一一月九日判決)の趣旨に照らしても、本件処分の取消訴訟が控訴審において実質的に審理されている本件においては、原告は、これとは別に無効確認訴訟を提起して、本件処分の適法性を争う利益を有していない。

したがって、本件訴えは不適法である。

理由

一  被告が、原告の昭和六三年分の所得税につき、平成元年一二月二七日付けで所得税総所得金額を六七二万五二五三円、土地等に係る事業所得等の金額を一億七五三二万七四五〇円、納付すべき所得税の金額を一億一九三六万七六〇〇円とする本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二  次に、原告が、本件処分について、平成三年八月三日、名古屋地方裁判所に所得税更正処分取消しの訴え(名古屋地方裁判所平成三年(行ウ)第三〇号)を提起し、平成五年九月三日、請求棄却の判決を受け、平成六年五月六日、名古屋高等裁判所に控訴し、現在係争中であることは、当裁判所に顕著である。

ところで、右取消訴訟においては、本件処分の適法性全般が審理の対象となるのであるから、原告が本件訴えにおいて重大かつ明白であると主張する違法事由についても、本件処分を取り消すべき違法事由の存否という限度で当然に審理の対象となる。したがって、原告は、右取消訴訟において、本件で主張している違法事由を主張することによって、違法処分により侵害されたとされる権利利益の救済を受けることができるのであるから、右取消訴訟の提起が不適法である場合その他無効確認の訴えによって権利利益の救済を図るべき特段の事情のある場合でなければ、右取消訴訟とは別に無効確認の訴えを提起する利益を有していないというべきであり、本件においては、原告の主張及び右取消訴訟の経緯からして、右特段の事情のないことは明らかである。

したがって、本件訴えには訴えの利益がない。

三  よって、本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治 森義之 田澤剛)

別紙<略>

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